公開日:

2025/10/01

仕上げは、共に働く仲間の手で ─ 地元産畳を使った椅子づくり [竹中工務店]

今回ご紹介するのは、株式会社竹中工務店の九州支店に新しくオープンするコワーキングスペースに納品した、「畳座の椅子」の製作ストーリー。

デザインはコワーキングスペースの設計を担当された濱崎拳介さんによるもので、VUILDはShopBotを活用した設計・製作面でのサポートを担当しました。最終的な仕上げと組み立ては、実際にこの場所で働く皆さまとともに。空間の記憶に残るものづくりを目指した取り組みをレポートします。

<椅子が設置される、小上がりを上がったところの大テーブルと窓際のカウンター

“屋台”のような大テーブルと調和する畳椅子デザイン

ご依頼いただいたのは、社内で新たにオープンするコワーキングスペースで使用する椅子の製作。旧食堂・厨房をリニューアルした空間の中央には長い大テーブルが置かれ、それを囲むように、頭上には軽やかな暖簾がかかっています。福岡と言えば屋台が有名ですが、まるで”モダンな屋台”のような、思わず大テーブルを囲みたくなるような空間になっています。

椅子のデザインは、このコワーキングスペースの設計を担当されている濱崎拳介さんによるもの。VUILDでは今回、ShopBotによる加工を前提に、制約や特徴をふまえたアドバイスを行い、設計・製作のサポートを担当しました。椅子は大テーブルと調和するような意匠で、板材の組み方がデザインのアクセントにもなっています。座面には、福岡の特産品である大川畳を使用。座り心地の良さに加え、畳のもつ柔らかな印象が空間にもやさしく馴染んでいます。

実はこの椅子、畳を取り外すと脚の内部が箱状になっていて、2Lのペットボトルが5本も入る収納力を備えています。防災備品の備蓄にも一役買っており、さらに8脚並べればベッドとしても使用できるように設計されています。オフィスのような場所では機能性の高い家具が求められることが多いですが、こうした“必要な機能とデザインを両立できる”のは、デジタルファブリケーションの強みとも言えます。

畳部分には600mm角の既製品のユニット畳を使用しています。サイズは注文時に確認できますが、実際にモックアップを作り、実物をはめながらフレーム部分の幅を最終調整をしました。座ってもズレず、裏から手で軽く押すと外れる程度のちょうどよい“はまり具合”を目指しました。

<モックアップを製作し、組み立て方や畳のはまり具合を検証した>

座面フレームに込めた、つくりの工夫と試行錯誤

今回、製作の中で最もこだわったのは、座面フレームの「トメ」の部分です。同じ角度に切りそろえた部材を合わせて角を作るのは、技術的に難易度が高い作業で、自由に切削できそうなShopBotでも、実は鋭角に加工する際に問題が起こることがあります。というのも、ShopBotで合板を加工する場合、鋭角の突起部分はエラーが出やすくなるのです。ShopBotは高速回転する刃物で切削するため、刃の進行方向と材の繊維方向との相性が悪いと、目こぼれが起きることがあります。合板はプライ(層)を直交方向に積層して作られているため、層が一つおきに引っかかってしまうような現象も起こります。実際、試作時にも同様の問題が発生しました。

<ShopBotで45°切削を試した例。よく見ると交互に層が掛けているのがわかる。>

モックアップの段階でいくつか検証を重ねた結果、トメの部分は手作業で製作することになりました。外形と組み立てに必要な細かい部分はShopBotで加工し、45°の部分は丸ノコを使って、目こぼれが起きないよう丁寧に手作業で仕上げました。ShopBotで細かい部分を効率的に加工しつつ、最終的には木工職人によって洗練されたディテールに仕上げる、デジファブと手仕事の合わせ技で座面のフレームが完成しました。

参加型ワークショップで、利用者と共に仕上げる

最終的な仕上げと組み立ては、実際にこの椅子を使用する竹中工務店の社員の皆様と共に、ワークショップ形式で実施。一人一脚を製作することを想定し、研磨、塗装、組み立てを3時間で終えられるように計画しました。

▼籠台車での輸送サービスを利用し、工場で加工したパーツをワークショップの備品と一緒に現場に搬入します。輸送方法をふまえて設計や製作計画を立てることも多くあります。

▼こちらは前日の会場の様子。一脚分の畳椅子を構成するパーツと、仕上げに必要な備品を並べて準備完了です。実際に椅子が使われる予定のコワーキングスペースで実施することで、空間づくりに自分も関わっている感覚が生まれ、自然と場への期待感が高まっていきます。

▼いよいよスタート!最初に、濱崎さんからコワーキングスペースと椅子のデザインについての説明を受けます

▼研磨作業の様子。今回使用したシナ共芯合板は比較的やわらかく、きれいに仕上がりやすいので、240番のサンドペーパーで研磨します。

▼塗装の様子。ワークショップで塗装することを想定して、塗りムラが出にくいオイル塗料を選定しました。大テーブルに合わせてカラーはクリアにすることで、素材の風合いをそのまま活かしています。

竹中工務店では、入社時にまず現場配属されるそうで、久しぶりの手作業に、当時を思い出された方もいらっしゃいました。作業中に自然と会話が生まれるのも、ワークショップならではの光景です!

<写真提供:濱崎拳介様>

▼組み立ての様子。ワークショップで組み立てることを想定して設計しているので、パーツについているスリットやホゾを見ながら直感的に組み立てられます。二人一組で作業し、5分ほどで一脚が完成しました。

▼完成の記念として、それぞれのサインが書き入れられました。

<写真提供:濱崎拳介様>

▼計画通り、全員が3時間以内に椅子を完成させ、最後は完成した椅子に座って記念撮影!

利用者と共につくることの価値

後日、オープン後のコワーキングスペースに並べられた椅子の写真が届きました。木を基調とした空間に、参加者の皆様が仕上げた畳椅子が心地良く並びます。

<写真提供:濱崎拳介様>

ワークショップで社員自らの手で仕上げられた畳椅子は、今では新しいコワーキングスペースの一部として、日々の業務を支えています。

デジタルファブリケーションを活かすことで、必要な機能と意匠を両立しながら、空間に関わる人自身が“つくるプロセス”にも参加できる。そんな設計と製作のあり方が、このプロジェクトには詰まっていました。つくることで、空間に愛着が生まれる— そんな体験を、ワークショップを通して届けられたプロジェクトとなりました。

<写真提供:濱崎拳介様>

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