グラングリーン大阪。そのエントランスに設置された2台の大型ベンチと1台の植栽ポッドは、来訪者を迎えるランドマークとして、まちの新しい景色をつくり出しています。前編では、コクヨ株式会社が作成した粘土模型をもとに、VUILDが6,120個もの木製パーツをどのように設計し、加工データへと落とし込んでいったのかをご紹介しました。
そして後編では、設計で描いた理想のかたちを、どのようにして現実の空間へとつくり上げていったのか、その製作プロセスに迫ります。硬くて繊細なナラ集成材を扱う加工の工夫、数千点におよぶ部材を正確に組み立てるためのユニット化、そして仕上がりの精度にこだわる施工の現場。設計チーム、エンジニアチーム、加工・施工チームが密に連携しながら挑んだ、後半戦のものづくりの記録をお届けします。
必要な手仕上げ工程を最小限にー硬いナラ材に挑む、加工の工夫
今回、本番加工に使用したのは国産のナラ集成材。モックアップ製作時にもナラ材を用いていましたが、本番用に届いた材はそれ以上に硬質で、ShopBotでの加工時には「逆目ぼれ(※木目の方向に逆らった加工によるささくれ)」が予想以上に多く発生しました。これら全てを加工後の仕上げでカバーしようとすれば、膨大な工数がかかってしまいます。

▶︎逆目ぼれが発生した部材
そこで頼りになったのが、前編でも紹介した、エンジニアチームと開発した独自ツールです。エンジニアチームが構築したツール上で、刃物の入り方や削る深さを1層ごとに数値管理し、材の反応を見ながらパラメーターの微調整を繰り返し、より安定した切削条件を探っていきました。これにより、仕上げを想定した荒い加工を行うのではなく、切削の段階から美しく加工できるようになりました。
また通常であれば、CAMソフト「Vcarve Pro」上で1点ずつ設定を行う必要がありますが、今回は6,000点を超えるパーツを扱うため、都度調整するのは現実的ではありませんでした。テンプレート化された設定値をベースにしながらも、現場の感覚と照らし合わせて微調整を重ねていく。そんな往復的なプロセスを通じて、ようやく最適な条件にたどり着くことができました。
結果的に、切削痕の目立たないなめらかな仕上がりを実現し、仕上げ工程に頼りすぎることなく、加工の段階からクオリティを引き上げることができました。

©️Hayato Kurobe
約6000点の部材を確実に組み上げるための、ユニット化という選択
加工を終えた膨大なパーツを、現場で効率よく、かつ美しく組み立てるために、2台のベンチは、あらかじめ工場で長さ600〜900mmのユニットとして組み上げたうえで、現場に搬入し設置する方法をとりました。計47本のユニットを現場で確実に配置していくために、組み立ての順序や構造を緻密に設計し、事前に工場で仮組みを行いました。

実際の現場では、全体の滑らかなラインを生み出すために、1ユニットを設置するごとに歪みがないかを細かく確認しながら、丁寧に組み上げていきました。特に直線と曲線の接合部では、ほんのわずかなズレが全体の印象を損ねてしまうため、ラインのつながりには細心の注意が払われました。

また、ベンチは25mm厚の板を横に積層することで構成されていますが、その間に生まれる細かな隙間に受け材を仕込むことで、スマートフォンなどの小物が落ちないようにするという工夫も施しています。これにより、利用者の利便性が高まるだけでなく、全体のラインもよりなめらかに、美しく見える効果が生まれました。

©️Hayato Kurobe
全長16mにもおよぶ巨大なベンチは、スケールのインパクトに目が奪われますが、実はひとつひとつの小さな要素へのこだわりの積み重ねによって成立しています。
逆目への対処、切削痕の軽減、ユニット化による施工性の向上、隙間への配慮、ラインの整合性などー。巨大なスケールでありながらも、一つ一つの課題を解決し、細部への丁寧なこだわりを重ねていくことで、ただの大型構造物ではなく、エントランスに立ち寄る人々が安らげる「ベンチ」としての佇まいが完成しました。

©️Hayato Kurobe
おわりに
設計チームやエンジニアチーム、そして加工・施工チームが密に連携しながら進めたからこそ成功した今回のプロジェクト。素材の特性や現場の条件に応じた加工・施工の工夫を重ねることで、難易度の高いナラ集成材の扱いをクリアしつつ、膨大なパーツの組み立てをスムーズに進めることができました。
VUILDでは、今回のような複雑で大規模な木製構造物の設計・製作にとどまらず、多様な素材や形状への対応、短納期での高精度加工まで、多岐にわたるニーズに応える技術基盤と経験を積み重ねています。設計者・デザイナーの皆さまの自由な発想を形にするパートナーとして、ぜひお気軽にご相談ください。
▶︎credit
基本設計:コクヨ株式会社
実施設計:VUILD株式会社 、コクヨ株式会社
制作:VUILD株式会社