公開日:

Dec 3, 2025

“スタートするための建築”とはーVivobarefoot東京店に見る、共創型店舗づくり

Vivobarefootは、足があるがまま自然に動けることを追求し、リサイクル素材を積極的に取り入れるイギリス発のシューズブランドです。その日本展開を担う株式会社ノマディクスは、店舗開発においても、リサイクル素材を取り入れながら、テクノロジーと職人技の共存による新しい循環の形を模索しています。

こうした想いのもとに生まれた東京店では、ノマディクスのスタッフ約20名が現場に立ち、下地となる木部材の組み立てや左官を自らの手で行いました。そして今回、VUILDは、その下地部分の製作を担当し、CNCによるデジタル加工で、工期の短縮、コストの低減をサポートしました。

デジタル加工と左官、リユース素材を組み合わせ、「自分たちでつくる」ことを前提に設計されたこの店舗。スピード・精度・創造性を同時に満たしながら進められた新たな店舗開発の背景について、担当の小久保さんと店長の増田さんに、VUILDの山川がお話を伺いました。

Vivobarefoot ▶︎https://vivobarefoot.co.jp/
小久保寧さん ▶︎https://www.instagram.com/zu_ko_u/

なぜ自分たちでつくるのか?スタッフ20人参加の、新たな店舗づくり

山川 本日はよろしくお願いします。はじめに、自己紹介をお願いします。
 
小久保 株式会社ノマディクスで、内装やイベントの什器などを含む店舗開発を担当しています。これまで、Vivobarefoot(以下Vivo)の京都・札幌の店舗を手掛けてきて、今回の東京店も担当しました。
 
増田 Vivobarefoot東京店の店長をしています。今回は、左官や研磨作業にスタッフと一緒に参加しました。
 
山川 完成した店舗を見るのは今日が初めてなのですが、どこにVUILDが加工した部材が使われているのでしょうか。
 
小久保 1階店舗のベンチや植栽などの内装下地、2階イベントスペースのカウンター、3階オフィスのテーブル、棚、ストックルームなどの加工をお願いしました。

1階店舗の円形什器・内装下地

2階イベントスペースのカウンター

3階事務所のストックルーム

山川 今回、プランニングやデザインにおいて意識したことはなんですか?
 
小久保 よくVivoの代表とも話すのですが、ただ「かっこいいデザイン」をつくるだけの時代ではないと思っていて、社会的に意義があること、やる意味があることを大切にしています。経年してより良くなるとか、無駄がないことも大事にしています。
 
山川 今回はスケジュールがかなりタイトでしたね。
 
小久保 そうですね。物件の契約が7月1日で、そこから3ヶ月後の10月1日のオープンを目指しました。今回ショップデザインを共創したmangekyoの児玉さんにお願いして、7月1日に採寸してもらい、そこから店舗設計と什器デザインを行い、7月下旬にVUILDさんにスケッチアップのデータをお渡しして、8月末までに部材の納品をお願いしました。9月頭に左官作業に入りたかったので、8月中に下地を終わらせたかったんです。

mangekyo|インテリアデザイン事務所|北海道札幌mangekyoは、商業空間のインテリアデザインを基軸に、家具をはじめとするプロダクトデザイン、建築デザインのディレクショmangekyo.net
 
山川 めちゃくちゃタイトでしたね(笑)。納期とコストの調整で、最終的に部材の研磨作業も現場側にお願いしましたが、今回はプロの職人さんだけでなく、ノマディクスのスタッフの方々も施工に参加してくださったんですよね。
 
小久保 はい。研磨や組み立てや左官も含めて、常時20人ほどが関わってくれました。研磨と塗装にかなり時間がかかると思っていましたが、人数がいたおかげで想定より早く終わりました。

人が集められる会社は、施工費もかなり抑えられるし、VUILDさんとの相性がいいと思います。スタッフの人件費を厳密に計算しなければですが(笑)。

増田さん提供

左官前の円形什器

山川 増田さんも実際に参加してみてどうでしたか?
 
増田 みんな楽しくやってましたよ。「俺のほうがうまいだろ」みたいな感じで(笑)。左官とかは職人さんに直されるかなと思いましたが、結構そのまま生かしてもらえました。
 
小久保 今回、専門性の高い部分は施工会社さんにお願いして、職人さんとスタッフが一緒に左官作業をしたのですが、それぞれの個性が出て面白かったですよ。綺麗にやるだけなら壁紙で済む話ですが、みんなでやることで意図しないムラや差が出て、お店の個性になったと思います。

増田さん提供

山川 そもそも、20人集まるってすごいですよね。
 
小久保  そうなんです。自分たちでやりたいという想いがあるのが、ノマディクスの特殊なところというか、良いところなんですよね。

完成された空間ではなく、“これから育てていく場所”をつくる

山川 今回のようにCNC加工を内装で使う意味や価値は、どんなところにあると思いますか?
 
小久保 今回は特に「みんなでつくる」というプロセスを大事にしたかったんです。専門家が作ったものには手を加えにくいですが、自分たちで作ったものは自分たちで直せるし、自由に変えやすいと思っていて。完成品を渡すというより、“スタートするための建築”という感覚で、このプロセス自体がノマディクスらしさなのかなと思っています。

3階事務所スペースにて

山川 なるほど。他にもありますか?
 
小久保 このビルはもともと壁の入り隅が湾曲しているんですが、それにピタッとした什器が作れるのはCNCならではですね。壁に沿うようにつくっているので、壁にビスで止めなくても安定しています。

山川 Vivoのブランドモチーフになっている六角形とも相性がいいですよね。
 
小久保 そうですね。幾何学的なものはCNCと相性が良いですね。今回、REMAREさんの素材も同じようにCNCで加工してもらいました。Vivo自体もプラスチックの再利用率が高いブランドなので、建材にもそうしたリサイクル素材を取り入れたいと考えていました。そういった取り組みをする企業を応援したい気持ちもありましたね。

REMARE | 廃棄プラスチックを循環型資源へと再生するアップサイクル企業 REMAREは、機械・プラントの開発、建築デザイン、プロダクトの製造など、多岐に渡って活動するクリエイター集団です。 パー remare.jp

山川 下地と天板、別々に加工してもぴったり合うのはデジタルデータならではですね。木と異素材を融合させるのもいいと思いました。
 
小久保 アクリルなど木以外の加工レパートリーが増えると、異素材ミックスがしやすくなります。今回は左官とセットで使えたので良かったです。

「EMARF」概算見積もりページ。データをアップロードすると自動で積算され、CNCでの加工データが生成される

山川 今日、1階のストアを見て、左官とEMARFの相性がいいことに初めて気がつきました。左官にはどんな素材を使ったのでしょうか?
 
小久保 T-PLASTERさんという神奈川の工務店が開発した新素材を使いました。車の廃材(鉄材)やレンガなどのテラコッタを砕いてまぜたもので、都市で出た“ゴミ”を素材として活用する、いわば「都市鉱山」という考え方です。土をどこかから運んでくるより、都市の中で循環する素材を使いたいと考えました。

T-PLASTER|ティープラスター ティープラスターは、本来のモノの在り方を追求し、ユーザーの豊かな暮らしを具現化する工務店です。「made with sou t-plaster.com

山川 いいですね。最後に、今後VUILDと一緒にできそうなことがあれば教えてください。

小久保 これからどうなるかわかりませんが、例えば今後Vivoが急成長して5年で30店舗をつくりましょうとなったとして、今の一つ一つデザインするやり方ではスピードも予算も追いつかないと思っています。なので、例えば、象徴的なものは統一して、VUILDで下地をつくってもらい、その左官仕上げは土地の材料を使うとかいいかもしれません。

今回、東京店で全員が一丸となって施工できた実績があるので、今後は地域ごとに地元の職人さんと協働しつつ、スタッフが合宿のように現地に入って下地や仕上げを行う。そんな「工務店を入れない店舗づくり」も、全国でできるかもしれません。

山川 めちゃくちゃいいですね!下地はVUILDでスピーディーに準備して、それぞれの地域のスタッフさんで仕上げていくというスタイルは新しい定番になりそうです。今日はありがとうございました!

増田さん提供


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A detailed look at EMARF case studies,
specialised manufacturing using EMARF,
examples of applications utilising the EMARF system etc.