グラングリーン大阪。そのオフィス棟エントランスに設置された2台の大型ベンチと植栽ポッドは、来訪者を迎える安らぎの場所をつくり出しています。ひとつは全長16m、もうひとつは8m。植栽と一体化し、やわらかな曲線を描くそのかたちは、見栄えが美しいだけでなく、人が自然と腰かけたくなるような居心地のよさもそなえています。
ベンチとポッドをかたちづくるのは、国産のナラ集成材から切り出された6,120個の木製パーツ。その膨大な数のパーツを、限られた期間のなかで、精度高く、かつ柔軟に設計・加工していくには、従来のやり方だけでは立ち行きません。いくつもの課題を乗り越えながら、どのようにしてこのベンチはつくられていったのでしょうか。

©️Hayato Kurobe

©️Hayato Kurobe
粘土模型から設計データへー手作業では追いつかない、設計とデータ処理の工夫
今回のプロジェクトは、コクヨ株式会社からご依頼をいただき、同社が作成した粘土模型を3Dスキャンし、設計データを立ち上げるところからスタートしました。
しかし、手作業の3Dスキャンでは、どうしても微細なノイズや歪みが出てしまいます。そのままでは加工に適した正確なモデリングができないため、スキャンしたラインを滑らかに整える処理が必要になります。特に今回は、パーツ数が6,000を超える規模。通常の方法では処理に膨大な時間がかかってしまいます。

そこで、プログラミングツール「Grasshopper」を用いて、3Dスキャンデータから必要な断面を抽出し、補正処理を自動化するアルゴリズムを作成。これにより膨大量のデータを、短時間で3Dモデリングソフト「Rhinoceros」でモデリング可能なデータに整えることができました。
また、加工前に行うクライアント間での承認段階では、立ち上げた3Dデータを図面化し、共有する必要がありました。手作業では非常に時間がかかるこの工程においても、3Dモデルから約8割の図面を自動生成し、PDF形式で出力可能な独自ツールをGrasshopper上で開発することで、作業のスピードを大きく向上また、ギリギリまでデザイン形状の変更に対応することできました。

膨大なパーツと向き合う、加工最適化のプロセス
設計の工夫に加えて、今回のプロジェクトでもうひとつ大きな鍵を握ったのが、「加工の最適化」です。
使用された国産のナラ集成材は、ヒノキや杉と比べて非常に硬く、加工の際には刃物の破損リスクもある素材です。通常、このような材をCNC加工する場合は、1パーツごとに加工スピードや刃の回転数といったパラメーターを細かく調整します。ですが、今回は270枚の板材から6,000点を超えるパーツを切り出す必要があったため、一点ずつ調整するのは現実的ではありません。
そこで、素材の特性を前提としたパラメーター設定をテンプレート化し、すべてのデータに一括で適用できるツールを開発。大量加工に対応する体制を整えました。

今回用に通常のWEB EMARFを社内向けにアップデートした設定画面。硬い紅葉樹でも複雑な加工ができるように細かい設定を保存・カスタムパスをつくることができる。

また、ShopBotで加工する際には、パーツをいかに効率よく板に配置(ネスティング)するかも重要です。通常、ネスティングには1枚あたり30分ほどの時間がかかる場合もありますが、この作業もまた、膨大な数の板を扱う今回のプロジェクトではボトルネックとなりかねません。
この課題に対しても、Grasshopper上で独自の高速化ツールを開発することで、ネスティングの処理時間をわずか5〜10秒に短縮し、意匠とコストのバランスを見ながら配置を調整していく、柔軟でリアクティブな設計・加工プロセスを実現しました。


おわりに
粘土模型からはじまり、様々な課題を乗り越えてカタチになった2台の巨大なベンチと1台の植栽ポッド。6,000を超える木製パーツを扱うプロジェクトは、私たちにとっても大きな挑戦となりましたが、デジタルとプログラミングの力を組み合わせ、プロセスそのものを再設計することで、実現することができました。
今回は設計に焦点をあてプロジェクトをご紹介しましたが、次回の記事では実際の加工と施工に焦点を当てた製作ストーリーをご紹介します。
▶︎credit
基本設計:コクヨ株式会社
実施設計:VUILD株式会社 、コクヨ株式会社
制作:VUILD株式会社