窓の外に広がる風景を遮らないように ─ そんなこだわりから、空間に溶け込むソファが生まれました。
狙いは、風景を引き立て、そこにいる時間をより心地よくすること。古い建物が持つ特徴を活かしながら、既製品では実現が難しい、有機的な造形の家具をどうカタチにしていったのか。そのプロセスと込められた想いについて、株式会社オレンジ・アンド・パートナーズの吉岡太郎さんにVUILD・山川と黒部がお話を伺いました。
既製品ではできないことを、VUILDと共に
山川 本日はよろしくお願いします。まずはじめに、自己紹介をお願いします。
吉岡 吉岡太郎です。僕がプロデューサーを務めるオレンジ・アンド・パートナーズは、放送作家の小山薫堂が代表を務めている企画会社です。
小山はもともとテレビの放送作家として活動していたのですが、今では仕事の領域が広がっていて、地方自治体の観光プロモーションや企業のブランディングなど、さまざまな分野の企画のご相談をいただくのが、僕たちの主な仕事になっています。
山川 吉岡さんはどのような業務を担当されているのでしょうか?
吉岡 地域施設部門で施設開発系の案件を担当しています。これまでに北海道でキャンピングカーの新規事業の立ち上げに携わったりしました。
山川 ありがとうございます。今回はどのようなプロジェクトだったのでしょうか?
吉岡 広島の尾道に「千光寺山荘」という、60年以上続いていた旅館があったのですが、コロナ禍の影響で閉業してしまったんです。その施設を、瀬戸内エリアで宿泊施設などの立ち上げやリニューアルを手がけている「瀬戸内ブランドコーポレーション」さんが買い取られて、「尾道倶楽部」としてリニューアルオープンするにあたって、施設全体のディレクションを弊社が担当することになりました。
尾道倶楽部 | Onomichi club広島・尾道のランドマークである千光寺山の中腹に位置する、エリア屈指の眺望を誇るホテルです。旧・千光寺山荘をリニューアルし、onomichi-club.jp
山川 その中で、VUILDには何をご依頼いただいたのでしょうか?
吉岡 ソファとパーテーション、テーブルの製作をお願いしたのですが、今回はその中からソファについてお話しします。
旅館の一つ一つの部屋は、入ると正面に大きな窓があって、そこから尾道水道が見える素晴らしい景色が広がる間取りになっています。だからこそ、入った瞬間の「驚き」を大事にしたかったのですが、窓辺にソファを置くことを考えると、一般的なソファだと窓の景色を半分くらい遮ってしまう。また、業務用の家具を普通に入れるだけだと、ちょっと面白みに欠けるなと思ったんです。
そこで、窓からの光が透けて見えるような、”景色を活かす”低めのソファをイメージし始めました。なのでVUILDさんにはそのイメージを共有しつつ、コストにもマッチするようなソファが作れないかとご相談しました。

photo Hayato Kurobe
黒部 デザインの原案となるアイデアは吉岡さんにご用意いただき、予算に合わせて、ほとんど部材ロスがでないように、合板2枚でできるようなソファのデザインをご提案をさせていただきました。
吉岡 オンラインで何度もやりとりを重ねて造形してもらったので、最初にやりたいと思ったことができたと思います。とはいえ、一度も座ったことがなかったので、工場にお邪魔してモックアップを見せていただきました。
ちょうどできあがったタイミングが、VUILDさんのイベント「VUILD WOODSTOCK」と重なっていたので、モックアップを見せてもらう流れでそのイベントにも参加させていただいたのですが、 他のお客さんがそれを見ている様子なんかも見ることができて、「これはいけそうだな」と、手応えを感じました。
スケッチなしで、思い描いた造形をつくる
山川 プロジェクトの進め方はどうでしたか?
吉岡 Pinterestのリファレンスとオンラインでのやりとりだけで形をブラッシュアップしていったので、実は今回、僕はスケッチすら描いていないんですよね(笑)。それでも最終的に「これ、いいな」と思えるかたちに落とし込めたのは、すごいなと感じました。
他の会社だったら、もう少し時間がかかったり、構造や予算の問題で「それは難しいです」と言われてしまったりと、躓きそうなポイントがいくつもあったと思うんですが、そういった部分もなんとかクリアしてくれて。リファレンスをお渡ししただけで、デザインをどう実現するかという構造面やコストまで含めてモデリングしてくれたのも、すごいなと思いました。

photo Hayato Kurobe
少し話はそれますが、僕はVUILDさんのことを、勝手に「木を使ってなんでも作れる会社」だと思っていて。一般的な家具製作会社では難しいような、少し変わった造形にも対応できるチームだという印象があったんです。
今回のプロジェクトを担当するにあたり、「これ、既製品じゃないな」とか、「なんだか面白い家具が置いてあるな」と思ってもらえるような、そんな印象を残したいという想いがあったので、今回のパートナーとしてはVUILDさんがベストだなと感じたんです。

photo Hayato Kurobe
山川 ありがとうございます!嬉しいです。出来上がってみて、クライアントさんの反応はいかがでしたか?
吉岡 すごく好評でした。納品したときに、パッと見ただけで「これは印象に残りますね」と言っていただけて。 一般的なソファより少し低めですが、そこをポジティブに受け取ってくれる声も多かったですし、実際に横になったときに「曲面が体に沿っていて心地いい」と言ってもらえたのも嬉しかったですね。ただの木製家具とは違う、ちょっとユニークな座り心地に仕上がったと思います。
あと、僕的によかったと思うポイントとしては、ソファが洗面台のベンチも兼ねているところです。洗面台が窓辺にあるのですが、古いホテルなのでインフラの構造上、その位置は動かせなくて。とはいえ洗面台用にも椅子が欲しかったのですが、ソファと別に置くと窓辺がごちゃごちゃしてしまうんですよね。
そこで、1台のソファで両方の役割を果たせるようにできないかと、VUILDさんにお願いしました。結果的に、ソファの片側をフラットにして洗面台のベンチとして使えるように、もう片側は寝そべったときに枕代わりになるように少し立ち上げてもらいました。

photo Hayato Kurobe
黒部 窓から見える山々とベンチの有機的な形がリンクしてる感じもいいですよね。
吉岡 山もそうですし、しまなみ海道が近いこともあって、この町では波がモチーフに使われることが多いんです。そういった意味では、今回のデザインも、周囲の環境と調和していると言えるんじゃないかなと思います。
山川 最後に、今後VUILDにどんなことを期待されているのか伺いたいです。
吉岡 やっぱり「木」のイメージが強いと思うので、たとえばメタルやガラスと組み合わせたり、もう少し素材のバリエーションが広がると、より魅力的なプロダクトが生まれそうだなと思います。木を中心にしながらも異素材との掛け合わせができると、頼む側としても「木以外もありなんだ」と選択肢の幅が広がりますし、そういう事例がもっと増えてくると面白いと思います。
また個人的な話にはなりますが、僕自身、EMARFってすごくいいサービスだなと思っていて。これまでの個人でのものづくりって、いわゆる日曜大工的にホームセンターで板を買って、それを組み合わせてDIYする、というのが一般的だったと思うんです。でも、EMARFのようにプレカットされたパーツを組み立てるだけで完成するっていうのは、すごく新しいDIYの形だと感じています。
山川 ありがとうございます!会社でも個人でもEMARFを活用していただければと思います!
風景と体験をつなぐ、ロングテーブルとレタールーム
今回は主にソファを中心にお話を伺いましたが、実はそれだけではありません。尾道への旅の思い出を残す仕掛けとして、「レタールーム」のパーテーションや、10人掛けのロングテーブルも製作されました。いずれも、それぞれ異なる機能や物語を持ちながら、この土地での体験の心地よさを高めるために設計された家具たちです。ここでは、そのパーテーションとテーブルについてもご紹介します。
●ロングテーブル
ソファとあわせて製作した、最大10人が利用できるロングテーブル。電源を確保できる仕様という要件とともに、空間に調和するデザインが求められました。現場での組み立て作業を最小限に抑えるために、仕口やジョイント金物の設計にも工夫を凝らし、目地が目立たないような接合部の取り合いを実現しています。
また、脚部にはカーフベンディングを用いて柔らかく丸みのある円柱形をつくり、天板には外の風景をほんのりと映し出すような仕上げを施しました。脚・天板ともにウレタン塗装を採用し、滑らかで端正な印象に仕上げています。

photo Hayato Kurobe
●レタールーム
”レタールーム”というコンセプトで製作したパーテーション。 宿泊者限定でデジタルカメラの貸し出しサービスが利用でき、滞在中に撮影した写真を印刷して、オリジナルのポストカードとして手紙に添えることができます。パーテーションには専用ポストを組み込み、カードをそのまま投函できる仕様に。また、撮影した写真やポストカードを飾れるスペースも併設し、旅の思い出を形にできるような設えになっています。
この「レタールーム」のアイデアは、オレンジ・アンド・パートナーズさんが日本郵便さんと取り組んでいた企画がもとになっているそうで、今回のプロジェクトでは、クライアントさんからのリクエストで、このコンセプトを取り入れることになりました。
製作には、大型のUVプリンターを所有するShopBotオーナーの協力を得て、木目の質感を生かしつつ高精細・高発色なグラフィックで仕上げています。カッティングシートや手作業では難しい繊細な表現を、滑らかに施しています。

photo Hayato Kurobe
おわりに
今回ご紹介したプロジェクトは、VUILDとの協働によって実現しましたが、今後はこのような家具製作や空間提案のご依頼が、VUILDの製作・施工のプラットフォーム「EMARF」に集まってくるようなかたちを目指しています。
EMARFとは、デジタル技術と高度なエンジニアリングを駆使して、より多様なものづくりの実現を支援するサービスです。デジタルファブリケーションを活かした低コスト・高品質な設計・施工をはじめ、特殊材の加工やアプリケーション開発まで、ニーズに応じた柔軟なご提案が可能です。自由な発想をかたちにしたいとき、ぜひ一度ご相談ください。
EMARF -自由な表現が、現実になる-EMARFは、設計と施工をシームレスに繋ぐ、設計者のための制作・施工プラットフォームです。emarf.co
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VUILD EMARF加工工場見学会 (6月)VUILDが提供する「EMARF」は、これまで家具スケールをの部材加工を中心とした木材加工サービスとして提供してきましたがpeatix.com