公開日:

2025/06/20

鋭角がつくれない? ーデジファブ加工における「角」のデザイン

パターンと建築の関係

建築や内装、家具など、私たちの身の回りには様々なパターン=模様が存在します。壁面タイル、道路のタイル舗装、駐車場スロープの凹凸、欄間やカーテンなど、装飾的なものもあれば、機能的な側面が強いものもあり様々です。しかしこれらの共通点は、単なる模様ではなく、具体的な「モノ」として空間に存在し、それを製作するための「図面」や「データ」が必ずあるということです。

これらのパターンが、どうやってデータからモノになるのか。言い換えれば、どんな検討をして、どんなデータがあれば実物を作ることができるのか?このような視点で、デジタルファブリケーション、特にCNCルーターを用いた加工における「角のデザイン」について考えます。

パターンの「鋭角」は作りにくい? 角を作る際の様々な課題

今回は、パターンに含まれる「鋭角(90度以下の角度のこと)」について考えてみます。

さっそくですが、2次元のグラフィックを、ShopBotのようなCNCツールを使って3次元のモノとして作り出すプロセスで、「あれ、なんか印象違う・・・?」と悩んだことはありませんか?その原因の一つとしてあげられるのが、「角」です。角は、どのように扱うかでデザインの印象が大きく変わり、特にグラフィックで鋭角な部分がある場合、これが問題となることがあります。

もう少し、「角」が持つ特性について深掘りしてみましょう。まずは、ShopBotのようなCNCルーターを用いて角をつくる際にぶつかる課題についてみていきます。

ShopBotでの加工においては、加工技術の制約上、デザイン通りに正確な鋭角を作り出すことが難しい場合があります。ShopBotは、高速回転する刃物をXYZ軸方向に動かして材料を切削しますが、この刃物の断面が「正円」であるため、内角(入隅)の部分を加工する際に、刃物が入り込めない角の部分には「フィレット」と呼ばれる加工がかかり、どうしても丸みが残ってしまうのです。

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角度が鋭角であればあるほど、刃物は角の手前までしか切削できずに大きなフィレットを残してしまいます。よって、鈍角だとそれほど気にならないのに、鋭角だと大きく見た目が変わってしまい、元のデザイン性を失ってしまう危険性があります。残ってしまったフィレットをノミなどを落として鋭角に仕上げる方法がありますが、格子のようなパターンだと数が膨大になり、現実的ではありません。

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SLUSH PARTITION

ここまではShopBotで「入隅」を切削する場合に発生する課題について書きましたが、鋭角が問題になるのはこれに限りません。外側に出てくる角、「出隅」の角度も、モノを作るときに重要なポイントになります。

そもそも、出隅の角が鋭角だと怪我をする可能性が高くなり、90°の木材の角でも手を切ってしまうことがあります。家具などで必ず角を面取りするのはこのためです。この他にも、製作や輸送時に欠けけやすくなるなど、様々な行程でエラーが発生するリスクがあり、私自身も実際にShopBotでものづくりをするようになってから、自然と出隅の角を回避する方法がないかと考えるようになりました。

鋭角は厄介?ならば、つくることに「適した」グラフィックを考えよう

ならば、エラーが起こりにくいパターンはどんなデザインなのか?ここからは、架空のプロジェクトを妄想しながらパターンのデザインをしてみたいと思います。

今回は、以下のパターンで建具の格子を作ってみます。
下の画像は2次元のグラフィックです。縦横に直行するグリッドがあり、斜めに交差する線で構成されています。格子になるときに切り抜く白い部分は二等辺三角形で、45°の内角が二つと90°の内角一つで構成されています。

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まずはこれをShopBotで加工するとどうなるか見てみましょう。想定する刃物はφ6.35mm。つまり切り抜き部分を加工するとき、刃物は外形線よりも内側に3.175mmオフセットしたラインを通ることになります(=加工パス)。加工パスはしっかり角を描いていても、角の部分には刃物半径分のフィレットが残ります。

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結果、線が8本集まる交差点ーつまり45°の角度が8つ集まっている部分にフィレットが集中し、面積が大きくなってしまいました。これはこれで可能性がある・・・?かもしれませんが、やはり全体的に丸く、ぽってりとした印象になります。元のグラフィックと比べても、線で構成された感じが落ち、印象が大きく異なります。

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それでは少し違うアプローチで立体化してみましょう。ここでは線が8本集まる交差点部分を主に考えます。
今回のパターンを観察すると、2種類のグリッドで構成されていることがわかります。縦横垂直グリッド(水色)と、45°傾けた対角線のグリッド(オレンジ)があります。つまり、鋭角を含まない90°のみで構成された2種類の模様が重なっているのです。

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この2種類のグリッドをそれぞれ板で切り出し、重ねて格子にしてみましょう。加工後、画像のようにフィレットが入ってきます。板を重ねるとこのようになり、90°が半角回転して重なることで45°の部分のフィレットがなくなりました。

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斜めから見るとこんな感じになります。2枚そのまま重ねても良いですが、厚みが出ることで、パターンの見え方が方向によって変わりやすくなってしまうこともあるため、今回は片方を一部ポケット加工にしてはめ込むようにしてみました。位置合わせにもなるため、パターンが肝になるデザインなど、精度をあげたい時には有効な手段かもしれません。

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実際の使い方の検証として、建具のように置いてみました。2枚のうち、どちらのパターンを表に出すかで全体の印象が変わります。室内・室外で違いを楽しむこともできますね。

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おわりに

ShopBotのようなCNCツールを用いたデジタルファブリケーションでは、デザインの自由度が大きく広がりますが、同時に加工方法に起因する制約も存在します。特にグラフィックパターンにおける「角」の問題は、使用するツールの刃物の形状から発生する避けられない制約です。しかしこの制約を理解し、それを前提としてデザインを検討することが、デジタルファブリケーションの醍醐味でもあります。つまり、デザイン段階から加工プロセスを意識することで、より「もの」としての実現性が高いものづくりが可能になります。

今回の妄想スタディでは、結果的に最初のグラフィック通りの成果物にはなっていません。実際の場合は、解決すべき点に優先度をつけて、「45°の部分は肝になるから鋭角をつくる」「90°はフィレットがそれほど気にならないから一枚で切り抜く」という風に、こだわる部分と妥協する部分を分けています。そして、最終的には元のグラフィックを「再現した」というよりは、その構成を理解して「展開・派生した」パターンが新たにできています。作り方を想定しつつ、パターンの角度にアプローチした一つの検討事例として参考になれば幸いです。

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