「デジタルファブリケーション」という言葉を聞くと、多くの人は「一点ものの複雑な造形」や「特殊な表現」を連想するかもしれません。しかし、この技術を建築やものづくりの現場で真に普及させていくためには、「いかにして汎用性を高め、多くの場面で活用できるようにするか」という問いに向き合う必要があります。
VUILDと日建設計DDL(Digital Design Lab)による共同プロジェクトは、デジタルファブリケーションを単なる「特別な表現手段」としてではなく、高い汎用性を持つ建築の「新しい作り方」として再定義する試みです。
目指したのは、唯一無二の造形美を追求することではなく、加工の手数を抑えつつ、広く応用可能な実装モデルを構築すること。その視点から生まれたのが「擬角材(ぎかくざい)」というコンセプトです。

本プロジェクトでは、森や製材所でのフィールドワークを通じ、従来は燃料チップ(C材・D材)として低価格で取引されていた木材を、規格材のように定格化することに挑みました。素材の個性を活かしつつ汎用性を持たせるため、独自のスキャンシステムや切削治具を開発。試行錯誤を重ねた半年間のプロセスには、これからの建築とデザインをアップデートするヒントが凝縮されています。
本記事では、設計から加工、検証までを一体で駆け抜けたプロジェクトの軌跡を、関係者のインタビューで振り返ります。
【プロフィール】
仙福孝太朗さん(株式会社日建設計)
竹内聡さん(株式会社日建設計)
山川知則(VUILD株式会社 ディレクター)
水野祐紀(VUILD株式会社 アーキテクチャルエンジニア / デザイナー)
【About「日建設計DDL」】
日建設計テックデザイングループDDL(Digital Design Lab)。「想像を体験へ、体験から価値を」をミッションに、情報×テクノロジーで都市や建築を含む社会環境へ新たな価値を創造する専門チーム。実践的プロジェクトと研究開発を横断的に展開する。
デジファブ ≠ オンリーワン?「汎用性」の追求
山川 今回のプロジェクトは、具体的なゴールを決めてスタートしたのではなく、「一緒に組んで何かやりたいですね」という、かなりラフなスタートでしたね。当初、VUILDに対してはどのような期待をお持ちでしたか。
仙福 日建設計のDDL内でもデジタルファブリケーション(以下、デジファブ)を活用する機会は増えていたものの、まだどこか特殊で限定的なシーンに留まっているという課題感があり、「いかにしてデジファブをスケールさせ、日常的な建築手法へと広げていけるか」ということを模索していた時期でした。
そんな折に山川さんからお声がけいただき、お互い話しているうちに私たちの目指している方向性と合致していると感じ、この協業が動き出しました。
山川 そうでしたね。最初はお互いの自己紹介やリサーチの共有から、ゆるくキックオフしました。
仙福 はい。お互いにデジファブのスタディ案をプレゼンし合いながら、徐々に解像度を高めていった感覚があります。
水野 そのタイミングで、お互いが「いい」と感じていた案に共通して、「手数を減らす作り方」というキーワードがあることに気づきました。設計・加工・組み立て、それぞれの手数をいかに最小化できるか、という視点です。
山川 オリジナリティを極限まで追求する「ワンアンドオンリー」ではなく、手数を減らすことで「汎用化」していくことが、VUILDとDDLが取り組むべき課題だと、だんだん共通認識を持てるようになっていきましたね。

フィールドワークで見えた「林業のリアル」
山川 初期段階で森や製材所へ足を運んだことも大きかったですよね。あのフィールドワークで何を感じましたか?
竹内 2か所の森と製材所を見学させていただいたことが大きかったです。それぞれの森と製材所が抱えている課題はそれぞれ全く違うということを、肌で感じることができました。
仙福 イメージを膨らませる良い機会になりましたし、一番は、自分の手で木を切ったという経験ができたのがよかったです。普段人と話していると、意外と林業の課題って理解されてないんだと思うことが多くて、それはきっと森と人の間に距離があるからだと思うんです。
今回、自分自身が森に足を運ぶことで、林業の課題をより身近に感じられるようになりました。このプロジェクトをプレゼンする中でも、フィールドワークに行ったという事実が説得力を増す感覚があります。

山川 群馬県の川場村で高性能林業機械を使う現場、神流町でチェンソー伐採の現場の2つを見学しましたね。現地に行ったことで、普段はチップになってしまうC材・D材などの「不定形な材」をどうにか活用できないか、という視点が生まれました。
仙福 その不定形な材を使うスタディの中で生まれたのが「擬角材」というアイデアです。丸太を角材に製材すると、出来上がるものは丸太の直径以下になってしまいますが、「擬角材」は材料のロスを最小限に抑えつつ、材を規格化しています。

価値が低いとされ、燃料チップなどになってしまう小径木

価値が低いとされ、燃料チップなどになってしまう大径木
不定形材を「規格」に変える、デジタルの解法
山川 フィールドワークを経て「擬角材」の方向性が決まったあと、実際の製作プロセスを振り返ると何が一番大変でしたか?
水野 これは実体験に基づくんですが…(笑)、スキャンって本当に大変なんですよね。とは言え、不定形の材を活用するにあたって、スキャンは避けられない工程です。なので今回は、必要箇所だけ局所的にスキャンをしようという結論になりました。
仙福 部分的なスキャンと加工で平滑面を出し、手数を抑える。その考え方が、最終的に 「インサイドアウト」というアイデアに繋がりました。丸太を縦に四分割して芯を外側に向けて組み直すと、外形は角材のような直方体になるんですが、内側には丸太の荒々しい木肌がそのまま残る。一般的な角材と同じ寸法体系で扱えるのに、丸太の表情を持っている。それが「擬角材」です。


水野 また、ShopBotでどう不定形材を扱うかが最大のハードルでした。通常は規格材を原点に合わせますが、今回は材を90度ずつ回転させながら加工できる専用の治具を開発しました。その結果、1台のShopBotで、約80本の四つ割り材と約40本の丸太を一週間で加工でき、大幅な手数の削減ができました。
先端を鋭利に加工したトグルクランプを丸太の両小口の中心に刺し、材を回転させる治具を製作した。ジョイント部分の中心からの距離を定義することで、不定形な材であっても、不変の「中心軸」を起点としたパス作成と位置合わせを可能にした。
丸太と四つ割り材が干渉するジョイント部分のみを加工パスから逆算して特定し、ピンポイントでスキャンを行った。 通常、スキャナーを手に持ち材の周囲を何度も回って全体をスキャンするが、今回はShopBotのスピンドル上部にスキャナーを固定。加工位置に合わせて軸を移動させ、写真を撮るように順次スキャンを繰り返す手法を採用した。
竹内 まだまだ細かい課題はあると思いますが、この短期間で一定の水準まで形にできたのはよかったですよね。今後もスケールさせていけるようなプロジェクトになったと思います。形にできたことで、「これでサウナを作りたい」という声があがったりと、アイデアが社内から集まってきています。
山川 それは嬉しいですね。今回、VUILDと協業してみていかがでしたか。
仙福 実は今回のプロジェクトが始まるときに、メンバーから「デジタルデザインで競合してしまうのでは」という声もあったんです。でも実際にやってみると、うまく分業できたな、という印象です。
加工プロセスを通じてデザイン側にフィードバックしてくれるVUILDさんと、様々な情報を集約して一連のプロセスとして設計するDDL。それぞれの役割を意識しながら、一緒に進められたと思います。
水野 同じデジタルデザインでも、経てきたプロジェクトが異なるので、両社それぞれの知見があるんですよね。DDLさんは、データの管理方法やディテールに対する解像度が高く、とても勉強になりました。それぞれデジタルの使い方が違って、デジタルといえど一概には言えないなと思いましたし、2社だからこそできたプロジェクトだったと思います。
竹内 デジタルデザインに対する共通のボキャブラリーがあるおかげで、言葉の意味を瞬時に理解できるのも良かったですよね。今回のタッグだったからこのスピード感でできたんだなと思います。
山川 デジタル×デジタルだったからこそ、一緒に問いを定義して、アイデアを出して、試す、という流れを高速回転させられましたね。

VUILD海老名工場での試作の様子
「作り方」そのものを再発明する
山川 今回、建築における一つの規格を「擬角材」として形にできましたが、今後の展開についてなにか考えていることはありますか?VUILDでは、必ずしも0→1で何かを作るのではなく、テンプレートやモジュールを活用する「作り方の再発明」がキーワードになっています。
仙福 そうですね。すべてを0から生成するよりも、ある程度決まったモジュールがあるなかで、条件に応じた振る舞いを考える機会も多くあるので、「作り方の再発明」という考え方には共感しますし、今後もぜひ一緒に何かやりたいです。
山川 作り方の文法から違うようなことに取り組みたいですよね。
仙福 今回アウトプットしたものを使ってデザインするということと、そして自分たちの手を離れて広がっていくような仕組みができたらいいですよね。さらには地産地消までできると、真の課題解決により近づける気がします。
まさに今VUILDさんが取り組んでいるような、”デザインする仕組みをつくる”ことができるのが、デジタルデザインの魅力だと思うので、今回のプロジェクトもその一端になるのかなと。
また、デジファブがより活躍する時代になったからこそ、今回のプロジェクトのようなプロセスがあると思っていて、DDLとしても新しい時代の設計の方法を考える上で、このプロジェクトの在り方を今後もっと深掘りしていきたいと思っています。
竹内 最初に山川さんに、「山に行かないとダメなんです!」と言われたときは、あのフィールドワークがこんなに重要な意味を持つとは思いませんでした。でも振り返ると、あそこからすべてが降りてきている気がします。
山川 設計者が林業の背景を知ったときに生き生きとしてくる姿を見るのが好きなんです。今回のような面白いプロジェクトを今後も楽しみにしています。今日はありがとうございました。








