2017年に創業したVUILDは、「生きるとつくるがめぐる社会へ」を会社ビジョンに、建築設計事業をはじめ、木材加工機「ShopBot」の導入支援や家づくりサービス「NESTING」の提供など、さまざまな事業に取り組んできました。そのなかの一つとしてVUILDが提供する「EMARF」は、これまで家具スケールをの部材加工を中心とした木材加工サービスとして提供してきましたが、2024年12月に大型リニューアルを行い、制作施工のプラットフォームへと進化しました。
このリニューアルでは、EMARF内部に組立制作や現場施工までをサポートする体制を整えることで、VUILDがこれまで培ってきたデジタルファブリケーションのノウハウを外に開き、より多くの方々が挑戦的な建築空間デザインを実現できるような未来を作りたいと考えています。
今回のインタビューでは、株式会社竹中工務店の鈴晃樹さん、下田洋輔さん、安達慶祐さんの3名をお迎えし、ご依頼の経緯から設計プロセス、そして市民参加型ワークショップでの実作までにどのような物語があったのか、VUILD株式会社・EMARF法人部の山川と木村との対話から探ります。
一番の「地域らしさ」に繋がる、市民参加型のものづくり
山川 はじめに、簡単に自己紹介からお願いします。
鈴 私と安達は竹中工務店の設計部門に所属しています。
下田 私はワークプレイスプロデュース本部という部署で、主にお客様の働き方変革のサポートから建物内部のワークプレイスづくりをしています。
山川 ありがとうございます。今回、庁舎のエントランスに設置するベンチの制作をVUILDに依頼してくださいましたが、その経緯を教えてください。
下田 竹中工務店の社員向けに開催されたVUILD秋吉社長の講演会に参加したことが、VUILDさんを知ったきっかけです。自分ゴト化してもらうために色々な人を巻き込みながら作るという秋吉さんのお話しを聞いて、それ以来ずっとワークショップ形式でお客様と一緒に家具づくりがしたいと思っていました。
今回国分寺市役所の建設のお話しがあった際に、市民を巻き込みながら作ることができたら、市民にとって、とても愛着のある市役所になるのではないかと思い、市に提案しました。
鈴 今回、デザイン面で国分寺らしさをどう表現しようかと考えた時に、国分寺にある「国分寺崖線」から想起される地層や湧水、植物をモチーフとして表現することになりました。
また、材料には国分寺市の友好都市である長野県飯山市の地域材を使うことになりました。そんな中で、形のイメージと材料の要件、さきほど下田からお話をしたワークショップを成立させるための作り方を考えた時に、それができそうなのがVUILDさんとデジファブだと考えました。

©︎Hayato Kurobe
山川 どのようなプロセスで進めたのでしょうか?
鈴 最初は形のイメージモデルを作り、板を組み合わせてワッフル構造で作れないかと木村さんに相談しました。
木村 そうでしたね。その際に、地域材は反ったりしやすいため、ワッフル構造だと大変かもしれないとアドバイスさせて頂きました。

鈴 作り方や機器の扱い方、ワークショップでの組み立て方などのアドバイスを頂きながら、一緒にブラッシュアップしていきましたね。3次元のデータを用いた打ち合わせは他社とはあまりする機会がないので、一緒に画面を見ながらアドバイスをもらえたのは良かったです。
安達 私は配属されて初めてこのプロジェクトを担当したのですが、今までは模型を囲んで検討するのが普通だと思っていたので、RhinocerosやGrasshopper上のモデルをリモートで共有しながら、複雑な形状に対してミリ単位で検討できたことが良かったです。
下田 普段はイメージパースや立面図からスタートして、2Dの製作図に対してチェックバックをしていくというプロセスですよね。今回やったような、3Dで形を決めてから図面化するというプロセスは、特徴的だと感じました。

©︎Hayato Kurobe
デジタルと人の手が多数に混ざり合った先に、見えるもの
山川 プロジェクトを進める中で課題や改善した方が良い点はありますか?
下田 市役所建設の関係人口や、愛着を持つ市民を増やすことが重要なので、物理的に難しい部分があるかもしれませんが、参加人数を増やして、より輪を広げていける活動になるともっと良くなりそうな気がします。
鈴 継続的な活動になるといいですよね。木を伐採するところから始まる、みたいな(笑)。回数を重ねることによって、様々なプロセスをみんなで分け合いながらつくれると、帰属意識もより高まる気がします。

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安達 実はVUILDさんの海老名工場にモックアップを見に行った時に、色々なインプットを得て「こういうこともできたかもしれない」と思ったんです。なので、事前にもっと知識が共有されていたら違うアプローチもできたのかなとも思いました。
鈴 デジタルツールって、デザインの可能性を広げられる反面、ツール自体が形を縛ってしまう側面がありますよね。新しい表現に辿り着くためには、そのツールを知り尽くすことが大事だと思います。今回は初めてだったので、次やる時にはもっとアイデアが広がりそうです。
山川 そうですね。デジタルファブリケーションを使ってデザインをしたことがない方は、まずはVUILDのワークショップなどに参加していただいて、何ができるかを知ってもらえるといいかもしれません。木村くんは制作パートナーとしてプロジェクトに携わってどうでしたか?
木村 デジファブが初めての方が多いので、僕たちのノウハウをどこまで伝えたら良いだろうかと迷うこともあるのですが、今回は最初に竹中さんからプロジェクトの意図や目的を十分に共有していただいた上で、詳細設計のところは任せていただいたので、良いバランスで分担しながら進められたと思います。
鈴 でも実は、「どこまでお願いしてよかったっけ?」と悩んだこともあったんですよ(笑)。
先ほどツールが形を縛ってしまうという話をしましたが、ツールだけでなくもちろん自分自身も自分を縛っているので、その時にこそ他者が貴重な存在になると思っています。違う組織にいる人と混ざり合いながら一緒になにかを作ることで、良い相互作用にもなるし、新しい価値が生まれるはずです。対等な共創のパートナーとしていてくれると良いなと思います。
下田 今回は国分寺オリジナルですべて制作したので、我々がイメージした国分寺らしさに対して、VUILD目線での国分寺らしさもあった上でブラッシュアップしていけるとよりよかったのかなと思いました。
鈴 もはや誰のデザインか分からなくなるくらい混ざり合って欲しいと個人的には思います(笑)。それでもなお、「これは自分がやったんだ」と多くの人が思える状態がひとつの理想ですね。

©︎Hayato Kurobe
山川 国分寺市役所さんで実施した子供達とのワークショップはどうでしたか?
鈴 これまで自分たちなりに考えてワークショップをやってきてはいたものの、VUILDさんのワークショップのやり方を見て、さすがだなと思いました。
下田 そうですよね。みんながただただ楽しんでくれていたことに尽きますが、それは、VUILDさんの空気作りやレクチャーあってのことだと感じました。
山川 みんなひたすらヤスリがけしていて、終わるのが名残惜しそうでしたよね(笑)。
木村 鈴さんたちが国分寺市民の皆さんと何度もワークショップを重ねてきたことによって、今後この市役所が市民の皆さんに愛される空間になるんだなとひしひしと感じました。最初にこのお話しを頂いた時に、国分寺市さんと竹中さんがいままで育んできたチームワークが見えたので、僕らとしても最終的にすごく良いものができてよかったです。
山川 オープンは2025年1月ですよね。みなさんのリアクションがたのしみですね。

©︎Hayato Kurobe
EMARFは、デジタル技術と高度なエンジニアリングを駆使して、より多様なものづくりの実現を支援しています。デジタルファブリケーションを活かした低コスト・高品質な設計・施工のほか、特殊材の加工、アプリケーション開発など、ご要望に合わせてより良いご提案可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。